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短編小説 「部屋に射す陽光」2008年11月08日 00時32分54秒

投稿作品

題名「部屋に射す陽光」

 天気がいいようである。  週初めは、忙しくなるが、天気もいいので、さらに今日は忙しくなりそうである。

 朝の清掃が終わった部屋で寛いでいる。この贅沢な待合室には、毎日、数人しか訪れない。数年前までは、廊下にある長椅子が普通であったが、いまは状況が大きく異なり、とても病院の待合室とは思えない。

 数年前に医療保険制度が崩壊し、医療はすべて患者の実費になった。そのため、医療において大きな格差が生じた。医療機関も格差に応じて、病院の差別化が急速に進んだ。この病院は、1年前に高級病院を目指して、超一流の医療設備、超一流の医師を揃えて、立て直した私立病院である。この待合室も、部屋としてあるが、この病院では患者が待つのではなく、医者が予約5分前から患者様をお待ちするシステムである。そのため、患者がこの待合室を利用することは、ほとんどない。この部屋を通って、直接、受付の者によって診察室に案内される。希に 患者に同行して来た方が、このソファーに座る程度である。

 私は、一日に数人の患者を診ることになる。以前の数で勝負というような病院とは大違いであるが、これが、本当に望まれている医療を実現したことになるのか。超一流の病院、医者にかかりにくる超一流の患者、超一流の患者とはどういう患者なのか。私は医者として、数人の患者を見ればそれでいいのだろうか。今日も、また高級ソファーの上で、解けないパズル、つまらないことを考えてしまった。

 部屋に日差しが入ってきた。病院の門が開いた鐘の音が聞こえた。本来、この部屋は患者様の部屋であり、医師がこの部屋で寛ぐことは許されていない。ソファーから立ち上がり、診察室に向かって歩いた。

 心地よい日差しにあたりながら、待合室を出た。

(文字数:718)

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